ジュンク堂の大阪本店にて購入しました。
目次とタイトルを見ただけの、ほぼ衝動買いに近いものがあります。
人によって「物」に対する執着の度合いは大きく異なります。
私の母親は、私が高校の卒業式を迎えた翌日に、詰襟の制服を早速捨てて私を唖然とさせました。
彼女は、使えるものはいつまでも使い続けるのですが、使わなくなったものは容赦なく手放してしまいます。
一方、私の父親は物にこだわるほうでして、酒を飲まなくなって十年以上たっても、若いころに買ったウィスキーのボトルなどを飾っていたものでした。
棚にはいつも鍵がかかっていて私は触ることができなかったのですが、どうやら中身もずっと残ったままだったようです。
いつか飲むためというよりも、青年時代の思い出という意味合いのほうが強いように思いました。
本書では、家庭内に存在するものの中で「特別なもの」を挙げてもらうというアンケートを、シカゴに住む一般的な家庭に無作為に行った結果を分析したものです。
若年層は自らの経験を広げるもの(テレビ、ラジカセ)を好むのに対して、高齢になるほど過去の思い出や人と人のつながりを想起させるものに執着します。
また、同じ年齢の、同じ性別の、似たような経済状態、健康状態の人間でも、驚くほど物に対する執着には差があります。
家族を形成するために、過去に捨て去った他の可能性(自由な時間、冒険にあふれた人生など)も、物への執着に大きな影響を与えているようです。
また、この種の本にありがちな、データを並べて傾向を見つけて終わり、といったものではなく、そこからかなり理論的な考察を引き出します。
人はお金があればあるほど高価なものを手に入れようとするものですが、実際に人に対して強い感情を引き起こすものは必ずしも高価なものとは限りません。
むしろ、安くても自らになじんだもののほうが、心に対してはよい影響を及ぼすようです。
このことから、著者は経済成長一辺倒の社会に警鐘を鳴らし、つつましく穏やかに生きることを主張します。
とはいえ、「お金がないのは首がないのと同じ」なんて言葉もありますし、なかなか著者の言うようにはならないように思いますが…。
原著は出版されてから30年も経っていますが、古さはほとんど感じません。
翻訳も比較的よいのですが、「cultivation」を「涵養」と訳するのはいかがなものかと思います。
「涵養」というのは、一般的に知れ渡った単語なのでしょうか…。